2021.07.07

形なきものの価値

株価は市場がつけた会社の価値ですが、多くの場合会社の資産価値(純資産価格)を上回る価格がついています。理由は、数字に表された貸借対照表上の価格以上の価値があると投資家が考えているからです。


形なきものは無形資産と呼ばれています。具体的には経営陣や従業員の質/研究開発等により生み出された知的財産/優れた品質やデザインの製品を産み続ける開発力/長い時間をかけて育まれた評判等により成り立っています。目には見えないこれらの組み合わせが、会社の価値を決め、将来の成長を保証しているといっても過言ではありません。


無形資産の代表的なものとしてブランドがあります。例えばエルメスのケリーバッグなどは定価だと100万〜200万が普通のようで、原材料の革がどんなに高級だとしても定価は原材料費によって正当化できる価格を超えています。何が定価の妥当性を保証しているのでしょうか。


ブランドを保ち続けるための大きなコスト。すなわち様々な媒体を使った宣伝広告費、ブランド名に恥じない品質を保持するための技術料、世界の一等地に旗艦店を出店するための地代、ブランドの背景となる人物や歴史などに裏打ちされたストーリー作りの妙等です。


表参道から原宿方面へ向かう通りの両側には有名ブランド店が軒を連ねています。この辺りは一等地なので地代も相当高額と思われますが、店内を覗いてみても人影はまばら。世の中の仕組みが良くわかっていなかった若かりし頃には、こんな集客でよく店が成り立つものだと不思議に思ったものでした。イメージを上げて、価格を高く保つことで所有者のプライドをくすぐり収益力に繋がるというビジネスモデルは、人間の心理に働きかけるものの典型です。


社会のデジタル化が進むに連れて企業が提供する商品も無形化が進んでいます。知識やノウハウへのアクセスを実現し(Google)多くの人との密接なつながりを提供する(Facebook やTwitter)写真で存在をアピールし(Instagram)セルフ・プロモーション(自己PR)を手軽に行う(YouTube等)こうした多くのサービスは人間の認知欲求(人から認められたいという欲求)を満たすツールとなっており、ブランドと同じように人間心理を巧みにとらえた無形のサービスを提供しています。人間の精神的欲求には限度がないに等しいので、無形資産を利用したビジネスは将来ますます大きな価値を生み出してゆくことでしょう。


生み出された価値は利益に形を変えるので、税金が発生します。これまで法人税は企業や店舗等のある場所をベースに課税されてきました。ところが上記のような企業が提供しているものは形のないサービスです。ネットを通じて世界中に提供されているため莫大な利益を産んでいるにもかかわらず従来の物理的基準ではとらえきれなくなりました。そこで課税基準を消費者のいる場所や地域に変更するような国際的合意が形成されつつあります。税の世界も無形資産を見過ごすことが出来なくなってきています。


形ある資産(純資産)の何倍の値段(株価)がついているかは、PBRという指標で表されています。また会社の生み出す利益が純資産の何パーセントにあたるかはROEで表され、ROEとPBRは正比例の関係にあります。但しROEが一定水準(一般的には8%)以下だとPBRは1で固定されてしまいます。形なきもの(無形資産)が利益上昇に貢献し、会社の価値(株価P)を引き上げるということです。