銅は金より尊し

今年に入って1オンス1,900ドルであった金の価格が1700ドル近辺へと大きく下がっています。一方、銅などの金属や原油価格は上昇の一途。特に銅の価格は約10年ぶりの高騰局面にあります。ワクチン普及により新型コロナの抑え込みに期待がかかり、景気回復への期待がモノの値段を押し上げているようです。


経済が上向いて金利が上昇する場合、これは良いインフレと言われます。経済上昇は企業収益を押し上げ、労働者への賃金増加につながります。余裕の生まれた家計は消費を増やし、これが再び企業収益を押し上げるという良い循環を産むからです。


一方、このところ米国の長期金利が急上昇してきました。(10年もの国債利回りは1年前0.6%程度でしたが、現在は1.7%前後の水準です。)長期金利=実質金利+予想物価上昇率と表せるので、長期金利の上昇は実質金利と予想物価率の和の上昇結果ということができます。


ここで、予想物価上昇率は良いインフレと言えるのでこの上昇だけが起きているなら問題はありません。ところが実質金利が上昇してその上がり方のほうが大きいということになると穏やかではありません。これまでのところ、実質金利は0を大幅に下回る水準にありこれが世界的株高や金価格の上昇を演出してきたからです。


実質金利がプラスになると金利の付かない「金」は売られることになります。実質金利マイナスは金融資産価格を押し上げる効果があるので、株がここまでは上昇してきたのも理にかなった動きといえるのでしょう。実質金利は上昇してきてはいますが、現時点ではまだマイナスです。マイナスが続いている限り株価には強い味方となり得ますが、プラスに転じる気配が見えてきた頃には注意が必要です。


世界の株式時価総額は106兆ドルとなり(20213末)過去最高を更新、過去1年で約60%上昇。一方、世界の名目GDPは91兆ドル(21年見通し IMF)で世界株式時価総額はGDPの117%です。(以上日経新聞)このパーセンテージはバッフェット指標と呼ばれ、100%を超えると株式価格は要注意水準と言われています。バブルが崩壊しないためには分母のGDPが大きくならなければなりません。


その為にはワクチンが効果を上げ、移動の制約が解除されて消費が大きく拡大すること、及び新たな科学的進歩に向けて企業が設備投資に動くことが鍵となります。経済拡大が原材料への需要を押し上げ、経済成長への良いインフレに導いてくれるなら銅は金より尊しと言えるのではないでしょうか。