色即是空の世界

コロナウイルスの感染者と死亡者の人数報告が日常となっています。日々増加する感染者。世界中の国々が今はとにかく感染を抑えようと、自宅に留まり外出を控えることを徹底しようとしています。今のところそれしか人の命を守る方法がないということでの外出自粛ということです。


これで事態が収束に向かってくれればやれやれ、ということになるのでしょうが長期化する可能性も否定できません。その場合クローズアップされるのが経済的な問題、収入の減少や失業者の爆発、企業倒産、さらには国家財政の破綻などです。長期に亘って経済が止まることは実体経済の崩壊を意味します。


1929年、米国の株価大暴落に端を発した大恐慌では経済の縮小により各国の失業率は20%以上へと転落し、貧困や病、更には自殺などにより多くの人の命が失われました。今回の問題はウイルスの拡大によりヒトの動きが止まったことによるもので、それが全世界で起きているので影響は大恐慌以上になる可能性も否定できません。(短期に収束できない場合)


「ヒトの命を守る」ことが最重要であるのは当然のことですが、命のはかなさは病だけに起因するわけではありません。経済の激しい落ち込みによって尊い命が失われるという現実は過去に何度も発生してきました。日本の失われた20年では自殺者の数が異常な数に膨れ上がったのは記憶に新しいところです。


今はとにかく感染拡大を防ぐことが先決ということで、人の移動や接触を伴う経済活動は自粛すべしということになっています。しかし感染は1~2カ月で消えてなくなるのでしょうか。収束が思うように進まなかった場合医療と経済活動のせめぎ遭いはより激しく厳しいものとなることが予想されます。感染拡大防止と経済活動制限の折り合いをどこでつけるのか。日本が直面しているのは感染阻止の問題だけではないはずです。都市封鎖まで踏み込んだ諸外国の経済縮小、それを織り込んだ自粛と活動の線引き判断ではないでしょうか。


仏教哲学の核となる言葉に「色即是空」があります。この世の物や現象(色)は時々刻々と変化しており、恒常不変の実体は存在しない(空)ということのようです。世界の情勢に目を向けた時この言葉の意味するところが正に発現しているような気がします。我々が日頃存在しているのが当然と思っていた様々な財やサービスなどの経済実体が一挙に消えてしまいました。この言葉と対をなす「空即是色」の世界に一刻も早く戻ることを願わずにいられません。